独立行政法人 放射線医学総合研究所
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平成17年6月16日
独立行政法人 放射線医学総合研究所

放医研、世界最高性能の
高感度PET用検出器(解像度1.5mm)を開発
小動物用PETや乳がんの早期発見などの部位別PET開発が大きく進展

【概要】

独立行政法人 放射線医学総合研究所(理事長 佐々木康人)重粒子医科学センター 医学物理部診断システム開発室の村山秀雄室長らは、島津製作所、浜松ホトニクス、日立化成、千葉大等との産学官共同により、解像度1.5mmを実現した世界最高性能の高感度PET用検出器の開発に成功した。本研究開発は、人間頭部を対象とする次世代PET装置開発で得た成果である「高感度と高解像度を両立する3次元放射線検出器(平成17年1月発表)」をさらに小型化し、新たな光分配方式の開発によって飛躍的に高精度化したものであり、これによって分子イメージング研究において不可欠である実験小動物専用の高性能PET装置の実現が大きく進展する。具体的には、市販の小動物装置の解像度が2mm(中心部)から5mm(周辺部)であるのに対して、画像中のどの部分でも1mm台の解像度が得られ、感度も5倍の向上が達成される。また本開発は、これまで波形弁別方式*1光分配方式*2のハイブリット型であったため、特定の蛍光体結晶においてのみ可能であった位置弁別手法を、光分配方式に集約したため、任意の蛍光体結晶に応用できることから、検出器の更なる多層化、高精度化が展望できる技術として注目される。

本成果は、6月21日にカナダ・トロントにて開催される米国核医学会(SNM)において発表する。

【開発の意義】

マウスやラットなどの実験用小動物のPETイメージングは、病気のメカニズム解明や新薬開発などの世界的な競争において極めて重要である。これを実現するためには、PETの心臓部である検出器の解像度を1mmに近づける一方、画像の精度を保つために感度を十分に高める必要があり、技術的に極めて難度の高い課題であった。透過力の強い放射線を十分に検出するためにはセンサーである蛍光体結晶を厚くする必要があるが、従来技術では、検出器を体に近づけて感度を高めようとすると斜め方向から入射する放射線の位置を特定する際の精度が劣化してしまうことから、感度と解像度の両立が困難であった。これに対し、先に放医研が開発した3次元放射線検出器は、検出器深さ方向の放射線位置を計測することによって、位置検出精度を保持したまま検出器を体に近づけて、感度と解像度の飛躍的な向上を可能とする。今回の研究開発では、これまでの1/7サイズである超小型蛍光体結晶(1.4mm角)を識別するために、4層の深さ方向位置を計測する光分配方式を新たに開発し、3mmだった解像度を1.5mmに高めることに成功した。これを小動物用PET装置へ応用すると、画像中均一な1mm台の解像度(市販小動物PET装置は中心部2mm〜周辺部5mm解像度)及び市販小動物PET装置の5倍以上の感度向上が予測される。また開発検出器は、乳がんの早期発見などを目指したヒト用部位別PET装置への応用が期待される。

【PETと分子イメージングの現状】

がんや脳血管障害、認知障害などの早期診断に有効と注目されているPET(ポジトロン断層画像診断装置)は、極微量の放射性元素を添加した特殊な薬剤を注射し、体内から放出される放射線を検出することで、糖代謝など代謝機能を画像化し、病気の有無や程度を調べる検査法である(図1)。これは、X線CTやMRIなど、組織の形態の異常から病気を見つける従来の検査法とは根本的に異なり、生体内の物質の動きを3次元的にイメージングする技術である。


図1 PETの原理

このことからPETは、生体分子の挙動を画像化する分子イメージング研究を推進する有力な手法として注目されている。分子イメージング研究は、分子生物学と画像医学を融合して、疾病の予防、早期発見、そして最適な治療による、生活の質の向上を目指す(図2)。具体的には、生体内での遺伝子発現やシグナル伝達、細胞応答をイメージングすることによって、がんなど疾病のメカニズムの解明、放射線治療などの高精度化、個別化治療、優れた診断薬や治療薬の開発を行う。特に、マウスやラットなど小動物を対象としたPETイメージングは、従来の解剖や観察に代わる技術としての分子イメージングを推進する有力な手法として、世界的な競争下にある。こうした背景から、近年、小動物専用のPET装置が開発・販売され、現在世界ですでに70台以上が稼動しているが、何れも十分な解像度と感度が得られていない。


図2 分子イメージングの流れ

【課題と方針】

小動物PETイメージングでは、対象の脳の部位や組織が小さいことから、人間用PETに比べ高い空間解像度が要求される。具体的には、イメージングに必要な容積分解能はターゲットの体重比で近似できることから、7mm立方程度の人間用PETの解像度に対して、ラットで求められる解像度は1mm立方と見積もられる。一方、画像の質を保つためには画素あたりの放射線検出数を保つ必要があり、解像度を1mm立方にすると同時に人間用PETに比べて装置感度を約80倍に高める必要がある(図3)

しかし、従来の小動物用PET装置は、装置感度を犠牲にして空間解像度を追求している。これは、透過力の強い放射線を十分に検出するためには、センサーである蛍光体結晶を厚くする必要があるが、従来技術では、検出器を近づけて装置感度を高めようとすると、この厚みによって斜め方向から入射する放射線の位置検出精度が劣化してしまうためである。この問題に対して、人間頭部を対象とした次世代PET装置開発プロジェクト(平成17年1月に成果発表)において、蛍光体結晶の深さ方向の放射線位置を計測する3次元放射線検出器を開発し、位置検出精度を保持したまま検出器を体に近づけることを可能とした(図3)


図3 小動物PETイメージングの要件とシーズ


図4 3次元放射線検出器の高精度化の原理

【開発技術】

解像度を1mmに近づけるためには、蛍光体結晶を小さくする必要がある一方で、受光素子の高精度化には限界がある。これに対して本研究プロジェクトは、蛍光体結晶間の反射膜パターンによる光分配方式を改良し、4層の放射線位置を電気信号から逆算できるように、光の広がり方を制御する方法を開発した(図4)。人間頭部用に開発した検出器とは異なり、蛍光体結晶の種類を問わない点が、本方式の特徴である。これまでの開発成果との違いを表1にまとめる。

表1 これまでの開発成果との違い
  今回 これまで
蛍光体結晶 1.4×1.4×4.5mm3
(1/7容積)
2.9×2.9×7.5mm3
受光素子 256画素(画素間約隔3mm)
深さ層数 4層
位置弁別手法 光分配方式の改良による4層弁別 光分配方式(2層弁別)と波形弁別方式(2層弁別)のハイブリッド型
検出器性能 約1.5mm解像度 約3mm解像度
その他特徴 ・任意の蛍光体結晶を利用可能
・更なる多層化の可能性
・特定の蛍光体結晶のみ利用可能
適用 実験小動物専用PET、人間部位別PETなどへの応用が期待される 頭部用試作機jPET-D4に実装済み

そして、同一種類の蛍光体結晶を用いた4層の3次元放射線検出器の試作に成功した。具体的には、市販小動物装置に用いられているものの1/5容積の超小型蛍光体結晶(1.4mm×1.4mm×4.5mm)を12×12×4層に配置し、各々の蛍光体結晶が識別できることを示した(図5)。人間頭部用に開発した検出器と比較して、同一仕様の受光素子により1/7容積の蛍光体結晶を識別している。


図5 検出器試作と性能評価

【研究開発の効果】

本検出器は、4層の深さ位置の特定により斜め入射の放射線位置精度を劣化させないため、検出器を近づけて感度を高めることができる。具体的には、図6に示すように、超小型蛍光体結晶によって解像度を高め、受光素子の厚さと検出器の近接化によって感度の向上を狙った、高性能PET装置の実現が可能である。計算機シミュレーションによって、1mm台(画像中均一)の解像度および市販装置の5倍以上の感度が達成できることが示唆されている。


図6 小動物用PET装置の高精度化

本検出器は、任意の蛍光体結晶や受光素子で3次元放射線検出が可能であることから、材料や部品の新たな需要拡大・技術革新が期待できる。また本検出器は、同一種類の蛍光体結晶によって4層の深さ位置を特定できることから、複数の種類の蛍光体結晶を組み合わせることによって、更なる多層化を実現できる可能性がある。本検出器は、乳がんの早期発見などを目指した部位別PET装置への応用も期待される(図7)

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図7 新開発検出器の発展性

(用語解説)

*1) 光分配方式 : PET装置の心臓部であるγ線検出器のために、放医研が開発した蛍光体結晶間の反射膜配置を層ごとに変えて光の広がり方を制御し、受光素子の位置信号から蛍光体結晶の深さ方向の位置を特定する方式。光学的に位置を分別するため、蛍光体結晶の種類を選ばない。

*2) 波形弁別方式 : 受光素子の波形信号を解析して発光特性の異なる蛍光体結晶を弁別する方式。蛍光体結晶の種類によって波形信号が異なることから、波形を弁別するための特別な回路が必要となる。

(本件の問い合わせ先)

独立行政法人 放射線医学総合研究所 広報室

TEL : 043-206-3026
FAX : 043-206-4062
E-mail : info@nirs.go.jp

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