NIRS次世代PET装置開発

<4> 装置制御システム

放射線医学総合研究所 医学物理部 佐藤允信 (Masanobu Satou)



1. はじめに

次世代PET装置開発シリーズ第4回となる本稿では、前回までの検出器・信号処理・画像再構成につづき、実際の次世代PET装置である『jPET-D4』の概要と制御システムを紹介する。

まずPET装置の要素について見てみると(図1)、大まかに5つの要素:検出器部・信号処理システム・データ収集システム・画像再構成・ガントリーをあげることができる。

図1 PETの要素

最初の“検出器部”はPETの目となる部分で、被験者の体内へ注入した放射性薬剤から放出されるγ線をとらえる。PET装置の性能を考える上で最も重要な部分でありシンチレーション結晶と光検出器などから構成される。γ線は透過力が強いため光検出器のみでは検出が難しい、そこでシンチレーション結晶と呼ばれるγ線を吸収する素材を用いる。シンチレーション結晶はγ線を吸収すると可視光を発生し、この光を光検出器でとらえることによりγ線検出とする。光検出器には光電子増倍管(PMT)やアバランシェフォトダイオード(APD)などが用いられる。

“信号処理システム”では検出器からの信号をA/D変換し1つの検出器の応答であるシングル計数を得る。リング状に配置した検出器のそれぞれのシングル計数を用いて、それらの計数が薬剤より発生した2本の消滅γ線であるか否かを、2つの検出器で同時計数されたかどうかで判定する。そして同時計数として得られた観測データは“データ収集システム”へと送られ保存される。信号処理・データ収集は特に計数率特性に影響を及ぼす部分である。

集められた観測データは、投影方向へヒストグラミングされたデータや時間情報を含んだリストモードデータとして保存されており、これらのデータを用いて“画像再構成”が行われることで観測データは薬剤分布画像へと変換される。

今まで述べてきた要素は主に計測から画像までの流れであるが、装置の外見となる“ガントリー”がある。ガントリーは検出器や信号処理回路などが収められ、シールドや校正機構なども含まれる。また、ベッドや操作パネルなどユーザーインターフェイスなども欠かすことができない。

以上のように計測(検出器部)・処理(信号処理システム)・保存(データ収集システム)・理解(画像再構成)・操作(ガントリー)の5要素が互いに連携しながらひとつのPET装置というしくみを作り上げている。


2. 次世代PET装置jPET-D4の構成

つぎに、次世代PET装置『jPET-D4』のシステム構成について述べる。jPET-D4は頭部用のPET装置である。jPET-D4としての目標は以下のようになっている。

まず“検出器部”は、名前の「D4」に見られるように4層DOI(Depth Of Interaction)検出器[1][4]が用いられる。シンチレーション結晶にはドープするCe濃度が異なるGSO(Gd2SiO5:Ce)2種類を、光検出器には浜松ホトニクス製位置弁別型光電子増倍管(FP-PMT)を用いている。GSO結晶の1つのサイズはCe0.5mol%の場合2.9mm(W)×2.9mm(D)×7.5mm(H)、Ce1.5mol%の場合2.9mm(W)×2.9mm(D)×7.2mm(H)でPSPMT上に16×16×4(上2層: Ce0.5mol%、下2層1.5mol%)に並べる。小さな結晶を並べ多層の構造にすること画像分解能を向上させると共に、γ線に対する感度を高めている。

検出器部の構成は、4層DOI検出器がリング方向に24個、体軸方向に5リングとなっている。開口径は390mm、FOV(Filed of View)径258mmである。つまり検出器数では120個、結晶数では12万2880個にもなる。(図2)

図2 jPET-D4システム検出器系構造図

この多い結晶数に対応するための“信号処理システム”は様々なものが必要である。まずはDOI検出器からの信号処理であるγ線をとらえた結晶の識別が必要である。結晶識別信号処理の詳細は、シリーズの前々回の記事[2]を参照して頂きたい。検出器それぞれに対して結晶識別を行なう信号処理回路が存在し、γ線検出のアナログ信号が検出位置を示すデジタルなシングル計数データへと変換される。同時にデータにはいつ検出したかを示す時間情報(TIME STAMP)が付けられる。(図3)

時間情報のついたシングルデータは同時計数を判断する回路へと送られる。この回路は、同時計数を得ようとする検出器対に対してそれぞれから流れてきたデータの時間情報を比較し、コイシデンスウィンドウ内のデータであれば同時計数と判断する。同時計数と判断された場合、2つのシングルデータをつなげて観測データである同時計数リストモードデータを作成する。リストモードデータには2つのDOI検出器でγ線を検出した結晶番地情報と同時計数をした時間の情報が埋め込まれる。jPET-D4では結晶番地の数が多いため1つのリストモードデータは64bitのデータサイズとなっている。

図3 検出器モジュールからデータサーバまでの模式図

jPET-D4では258mmのFOVを得るために1つの検出器に対してリング内で13個の検出器と同時計数をする。さらに結晶対でのLOR(Line of Response)にすると40億以上もの同時計数のための番地(メモリ)を用意しなければならない。そこでjPET-D4では1つに集中させるのではなく、6系統の並列処理をさせることにより高い計数率を実現している。

“データ収集”では、リストモードの同時計数データは同時計数回路に合わせて6台並列収集を行なう。6台のサーバPCと6系統の同時計数回路はUltra Wide SCSIによりパラレルデータ転送を行なう[9] 。特にデータ収集では直接データをPCのハードディスクに保存する以外にPCに大容量のメモリを搭載し、同時計数回路からのデータは直接メモリ上に転送し、別のプロセスがメモリ上に置かれたデータをHDDやデータ保存用のデータサーバに転送することが可能である。これにより収集時のデータ転送による数え落としを防ぐことができる。また、データサーバでは、6系統に分割されたリストモードデータが1つに集められ、ファイルの統合および時間順のソート・一定の時間間隔でデータを分割するなどの機能を持っている。

“再構成”では、観測されるデータが計測時刻の情報をもつリストモードデータとして得られる。これにより計測時間内のすべてのデータを用いた再構成のほかに、データを一定間隔ごとに分けることによって、薬剤分布の動態解析を行なう際に有効である。とくに画像再構成についてはシリーズの前回の記事[3]を参照していただきたい。

jPET-D4の“ガントリー”では、ベッドの上下・前後(図4)に加え、物理計測実験等に有効な線源機構を持っている。その線源機構は左右方向と回転を行なうことができる。また操作に関しては、ガントリーの横にある制御パネルによる手動操作に加え、外部PCからの操作も可能である。

図4 ベッド・校正線源機構の動作

以上、それぞれの要素毎にjPET-D4の特徴について概略した。しかしこれらの機構それぞれを個別に制御することは困難である。そこでシステム全体での制御が必要である。次に全体の制御システムについて述べる。


3. jPET-D4制御システム

次世代PET装置jPET-D4プロジェクト[5-8]では要素毎に開発が進められてきた。それぞれの要素が個別に存在するが、システム全体としてこれらを制御する必要がある。jPET-D4では統括的な制御命令を発行するサーバを中心として各要素を制御する(図5)。サーバOSおよび各制御機構のOSはLinuxを採用している。

制御する対象は、DOI検出器の結晶弁別を行なう位置弁別回路、リストモードデータを生成する同時計数回路、並列同時収集を行なう収集PC、収集データを統合し再構成を担当するデータサーバ、ベッドや校正線源機構を動作させるガントリー制御部などである。

図5 jPET-D4ネットワーク図

それぞれの制御機構はそれぞれ専用のPCを搭載し、制御用の命令伝達系はLAN上で行なう。LANは1000BASE/Tベースのネットワークを採用し命令伝達と一緒に収集PC−データサーバ間やデータ転送路としての役割も担っている。制御プロトコルはTCP及びUDPを用いて、主にTCPにより命令の伝達をおこない、サーバは命令を各制御機構にパラレルに発行することが可能で、全機器を一斉動作させる以外に個別の動作も可能である。エラーやイレギュラーな動作の際にはUDPによりサーバが異常を検知し、全機構に停止命令を発行しすべてを停止させる。

実際の操作は直接サーバを操作するのではなく、制御系のLANとは別のネットワーク上にある操作専用のコンソールPCを通して行なう。コンソールPCではOSとしてWindowsを採用した。


4. 現在のjPET-D4

ここで現在のjPET-D4の進捗について紹介する。jPET-D4システムは、ガントリー、ベッド、同時計数回路、6台の並列収集PC、システム制御サーバ、検出器信号処理回路、検出器モジュール、電源装置などがある。試作機であることもあり必要な機材がすべて1つの部屋の中に納まっている状態である。(図6)

図6 現在のjPET-D4の概観(2004年11月)

まず目に付くガントリーは、頭部用のPET装置であるため商用の全身用PET装置に比べ小さな形状をしている。現在検出器の入ったモジュールの調整及び組み込み作業を行なっているためガントリーの側面部分は開放した状態である。

ガントリーにはリング方向をまとめた検出器モジュールが円周方向に24モジュール並ぶ。これらはガントリーに付けられているガイドにより0.1mm程度の精度で設置が可能となっている。1つの検出器モジュール内には体軸方向5つの検出器をセットする。ガントリー後部には検出器信号処理回路が納められる。1つの検出器信号処理回路基板は2つの検出器を担当しており120個の検出器に対し60枚、同時計数回路への転送のための基板が12枚、検出器基板の調整を行なう基板が4枚、合計76枚分の基板が入ることになる。現在は1リング分対応した回路が設置されている。

ガントリーの後に同時計数回路ラックが設置されている。検出器信号処理回路からの12入力を2入力ずつまとめて6系統の同時計数回路へと流れる。同時計数回路の横にある収集PCは6台のラックマウント型のサーバPCでシステム制御サーバも同型のPCを用いた。これらは再構成用の並列PCとしても利用可能な能力をもっている。


5. まとめ

本稿では、次世代PET装置『jPET-D4』の概要と制御システムについて紹介した。本稿執筆現在(2004年11月)、jPET-D4は全体の1/5(1リング)の検出器のガントリー実装を進めている。さらに2005年夏までには残りの検出器を実装し、jPET-D4の完成を目指している。



参考文献

  1. 稲玉直子,津田倫明:『次世代PET装置開発〈1〉3次元位置検出器』,放射線科学,Vol.47, No.7, pp.222-229, 2004.
  2. 吉田英治:『次世代PET装置開発〈2〉DOI検出器信号の処理法』,放射線科学,Vol.47, No.8, pp.242-248, 2004.
  3. 山谷泰賀:『次世代PET装置開発〈3〉画像再構成の視点から』,放射線科学,Vol.47, No.9, pp.296-301, 2004.
  4. H. Murayama, H. Ishibashi, H. Uchida, et.al: "Design of depth of interaction detector with a PS-PMT for PET", IEEE Trans. Nucl. Sci., Vol.47, pp.1045-1050, 2000.
  5. 村田啓,村山秀雄編:平成12年度次世代PET装置開発研究報告書,NIRS-M-145, 放射線医学総合研究所,2001.
  6. 村田啓,村山秀雄編:平成13年度次世代PET装置開発研究報告書,NIRS-M-157, 放射線医学総合研究所, 2002.
  7. 村田啓,村山秀雄編:平成14年度次世代PET装置開発研究報告書,NIRS-M-165, 放射線医学総合研究所, 2003.
  8. 棚田修二,村山秀雄編:平成15年度次世代PET装置開発研究報告書,NIRS-M-172, 放射線医学総合研究所発行,2004.
  9. 吉田英治,村山秀雄,清水啓司,北村圭司:『次世代PET装置におけるデータ収集システムの基礎的検討』,Jpn. J. Med. Phys., Vol.23. No. 1, pp.65-72, 2003.



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