PET装置の過去・現在・未来 シンポジウムI

高感度・高解像度・高速度を目指す次世代のPET装置

村山 秀雄

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)


PET装置の開発が開始されてから約40年が経過した。その間、PET装置の性能は着実に向上してきたが、その技術進歩の要となるのはPETの原理とも言える同時計数測定法であった。とりわけPET独自の3次元画像再構成法が考案された効果は大きく、3次元モード収集方式の実用化により2次元モード収集方式に比べて大幅に感度は向上した。一般に高感度と高解像度を共に達成できないのが通常の計測機器であり、SPECTもその例外ではない。しかし、同時計数測定法に基づくPETでは、高感度かつ高解像度を両立させることが原理的に可能であり、この利点を最大限に活かす工夫はまだ不十分であった。最近開発された深さ位置情報(DOI)検出器を組み込めば、解像度を妨げないで3次元モード収集方式における立体角の増加が可能となるため、将来は一層の感度向上が見込まれる。また、消滅放射線の飛行時間差(TOF)を精度よく測ることができれば、高感度化はさらに増進できると期待されている。
 
今後とも、PETの同時計数測定法を活かす新たな要素技術が見込まれる。その1つがDOI及びTOFの性能を向上させる新規シンチレータの開発である。また、光電子増倍管に代わる受光素子として、アバランシェ・フォトダイオード(APD)がよく知られているが、将来は、光電子増倍管と同程度の増幅度が可能なガイガーモードAPDが期待できる。一方、シンチレータに代わってCZTもしくはCdTe半導体を用いたDOI検出器が近年開発され、PET装置の試作も行われている。これらは検出素子が小さいため感度低下をもたらす傾向にあるが、検出器内散乱線を有効に活かす技術を確立すれば感度を大幅に向上できる可能性がある。DOI-TOF-PET装置では、膨大な計測データをリアルタイムに処理する高速演算回路の実現が必須となる。電子回路技術および信号処理技術が進歩すれば、画像をリルタイムに表示できるリアルタイム型PETが将来実現するだろう。
 DOI
検出器は、MRI装置に組み込む小型PET装置には最適な検出器である。また、DOI検出器を用いれば自由な検出器配列が可能となり、測定対象部位の両側にリング検出器を配置するOpen PET が将来は有望である。Open PETでは、検出器リングを除いた空間にX-CTや超音波装置など他のモダリティのイメージング機器を挿入できるだけでなく、治療用機器を治療部位近傍に配置することで術中PET画像を得ることも実現可能となるであろう。高感度・高解像度・高速度のリアルタイム型Open PETが可能になれば、がん特異性薬剤が集積する部位を粒子線ピームで狙い撃ちする技術が実用化され、体動に影響されにくい放射線治療を実現することも夢ではない。

 


 

DOIPET 一般口演37

4層の深さ識別能を有する頭部用PET装置jPET-D4の改良

吉田 英治

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

錦戸 文彦

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

渡辺 光男

(浜ホト)

長谷川 智之

(北里大)

北村 圭司

(島津製作所)

山谷 泰賀

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

村山 秀雄

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)


放医研で開発した頭部専用次世代PET試作機jPET-D42.9x2.9x7.5mmGSOシンチレータを4層に積層した3次元検出器(DOI検出器)を120個用いてリング径39cm及び体軸視野26cmの検出器リングを構築する。DOI検出器は斜めから入射した放射線による空間分解能の劣化を改善できるために、結晶素子が放射線を検出するのに十分な深さを維持しリング径を小さくすることができる。これにより高い空間分解能(視野内において一様に3mm以下)を保持したまま高感度(点線源による視野中心での感度が10%以上)の計測が期待される。本装置は非常に高い性能を有しているが、ダイナミックレンジおよび安定性に問題があり計測が制限されていた。本報告ではダイナミックレンジや安定性の改善に取り組んだ結果を報告する。

 


 

DOIPET 一般口演37

アバランシェフォトダイオードを用いた光分配型DOI-PET検出器の開発

錦戸 文彦

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

稲玉 直子

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

澁谷 憲悟

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

吉田 英治

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

Chih Fung Lam

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

山谷 泰賀

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

高橋 慧

(千葉大自然)

村山 秀雄

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)


アバランシェフォトダイオード(APD)は最近実用化された半導体受光素子であり、光電子増倍管(PMT)と比較して磁場に強い・消費電力が少ない・コンパクトであるという特性を持つため、PET検出器用受光素子としての利用が期待されている。現在我々のグループではAPDを用いた光分配型DOI-PET検出器の開発を行っている。過去の研究においてシンチレータと位置敏感型PMTからなるPET用検出器を用いて4層までのブロックに対して結晶弁別に成功しており、本研究では結晶ブロックの構造に関しては同様の方式を用い、受光素子を浜松ホトニクス製マルチピクセル型APDs8550)に取り替え実験を行った。その結果、DOI検出器として十分な結晶弁別能が得られる事がわかった。

 


DOIPET 一般口演37

2×2 PMT配列によるPETDOI検出器の開発の試み

稲玉 直子

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

村山 秀雄

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

山谷 泰賀

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

錦戸 文彦

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

澁谷 憲悟

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

吉田 英治

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

Chih Fung Lam

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

高橋 慧

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター,千葉大自然)


全身用PET装置の普及には、検出器の価格が考慮されなければならない。我々の以前開発したDOI検出器は位置弁別型PMTPS-PMT)に3次元配列したシンチレーション結晶アレイを光学結合したもので、サンプリング間隔が結晶サイズに対して十分細かいPS-PMTを用いているため結晶アレイ内の反射材構造を工夫するだけでDOI検出が可能になった。本実験では安価なPMT 2×2配列に結晶アレイを結合することを考える。一般的に安価なPMTは大きいためサンプリング間隔が分解能を得るために必用な結晶サイズに対して大きくなる。結晶識別は4つのPMT信号の重心演算によってなされるため、離れたPMTまでシンチレーション光を到達させる必用がある。また、DOI識別のために、深さ方向に重ねられた各結晶から4つのPMTへの光分配に差をつけなければならない。通常、光の分配に結晶アレイとPMTの間にライトガイドを挿入するが、本実験では結晶アレイ内部の反射材の工夫も合わせて行い、安価なPMTでもDOI識別が可能であることを示す。

 


 

DOIPET 一般口演37

4DOI情報による放射線検出器の時間分解能向上とDOI+TOF-PETの提案

澁谷 憲悟

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

錦戸 文彦

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

稲玉 直子

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

吉田 英治

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

Chih Fung Lam

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

山谷 泰賀

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

村山 秀雄

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)


消滅放射線の飛行時間差を画像再構成に用いることで、従来のPETよりも実効的な装置感度が上昇する、いわゆるTime-of-Flight型のPETTOF-PET)装置では、搭載される放射線検出器の時間分解能が高まるほど、感度の増倍率が向上する。これまで、消滅放射線とシンチレータ結晶の相互作用位置の深さ情報(DOI情報)は、主にFOV辺縁部における解像度の改善を目的として開発されてきたが、本演題では、DOI情報が放射線検出器の時間分解能の向上にも寄与することを示す。つまり、消滅放射線が光速度cでシンチレータ中を透過するのに対して、シンチレーション光は(cn)に減速するため、DOIによって時刻情報に誤差を生じてしまう(nはシンチレータの屈折率)。DOI検出器では、この時刻誤差を補正することにより、時間分解能が向上する。結論として、DOI+TOF-PETという、新たなPET装置の概念を提案する。

 


 

画像再構成 一般口演56

頭部用試作機jPET-D4における画像再構成計算の高速化

山谷 泰賀

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

Chih Fung Lam

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

吉田 英治

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

稲玉 直子

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

錦戸 文彦

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

澁谷 憲悟

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

菅 幹生

(千葉大工)

小尾 高史

(東工大総理工)

村山 秀雄

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)


放医研では、産学協力体制のもと4DOI検出器を世界に先駆けて開発し、頭部用装置jPET-D4を試作した。従来装置の約50倍の44億本にも達するLOR数は、DOI compression法によって1/16に削減されるが、それでも数日レベルの画像再構成時間を要していた。本研究では、計算時間の大部分を占めるシステムマトリクス計算について、事前計算法と再構成計算中に逐次計算するon-the-fly法の2つの方法から、それぞれjPET-D4画像再構成の高速化を試みた。前者では、ゼロ値要素の除去や装置対称性の活用により、140ペタバイトにも達するシステムマトリクスを25ギガバイト以下に圧縮した。後者では、システムモデルを単純化することで計算量を抑制した。そして、2CPUdual-core 3.0GHz Xeon)を搭載したWSに両手法を実装したところ、どちらも約4時間の再構成計算時間で良好な画像が得られた。また、4ノード計算機を用いた並列計算化により、約1時間に短縮できる見通しを得た。

 


 

画像再構成 一般口演56

検出器の故障やクセを考慮したjPET-D4画像再構成手法の提案

山谷 泰賀

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

吉田 英治

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

村山 秀雄

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)


検出器の故障やクセは、再構成画像の画質劣化を引き起こす。これは、画像再構成において定義する観測モデルと現実の装置特性が一致しないことによる。特に放医研にて開発した頭部用試作機jPET-D4では、新技術である4DOI検出器の故障が比較的多いほか、検出器ブロック端の弁別性能が低いというクセも持つ。本発表では、画像再構成において装置側のエラーを考慮する方法を提案する。具体的には、データと観測モデルの両者からエラーLOR自体を除去することによって、観測モデルのミスマッチをなくす。OSEM法に提案方法を付加し、jPET-D4の実験データに適用した。ブロック端のクセについては、ブロック端に係るLORを全て除去した結果、大部分のアーティファクトが抑制された。検出器ブロックの故障については、全120個の検出器のうち、数個程度の故障であれば影響は無視できることが分かった。通常、検査後に検出器の故障に気づいた場合再検査を余儀なくされるが、本手法によって画質劣化を後処理で回避することが可能になる。

 


 

装置 一般口演59

高感度PET装置のための検出深さ位置とエネルギーを利用した散乱線除去法の検討

吉田 英治

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

北村 圭司

(島津製作所)

錦戸 文彦

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

澁谷 憲悟

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

長谷川 智之

(北里大)

山谷 泰賀

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

村山 秀雄

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)


PETにおける散乱線は検出器に到達するまでにエネルギー損失を引き起こし、検出器への入射エネルギーが低いほどシンチレータの上層での相互作用する確率が高くなる。シンチレータのみで散乱した消滅放射線(結晶散乱)は散乱線と同じくエネルギー損失を引き起こしているが、ポジトロン核種の体内分布に関する情報を有している。従って、エネルギーウィンドウを広げて結晶散乱を取得できればPET装置の更なる高感度化が達成できる。しかしながら、単純にエネルギーウィンドウを広げただけでは散乱線が増大してしまう。本研究では深さ識別可能なPET装置を利用して、従来のエネルギーウィンドウに付加して散乱成分よりも結晶散乱が支配的な検出深さとエネルギーの領域を第2のエネルギーウィンドウとすることで散乱線の増加を抑えつつ高感度なPETの実現可能性についてシミュレーションにより検討した。

 


 

装置 一般口演59

オープンPET装置の提案

山谷 泰賀

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

稲庭 拓

(放医研重粒子)

蓑原 伸一

(放医研重粒子)

吉田 英治

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

稲玉 直子

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

錦戸 文彦

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

澁谷 憲悟

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

Chih Fung Lam

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)

村山 秀雄

(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)


PET装置の長いトンネル状の患者ポートは、検査中の患者の心理的ストレスを高めると共に患者へのケアの障害にもなる。本発表では、体軸方向に2分割した検出器リングを離して配置し、物理的に開放された視野領域(=オープンスペース)を有する世界初のオープンPET装置を提案する。具体的には、3次元モードPET画像再構成問題の冗長性に着眼し、残存する検出器リング間のLORで欠損情報を補って画像再構成する。まず、HR+(検出器リング直径83cm, 体軸視野15cm)を2台配置したオープンPET装置をシミュレーションし、15cmのオープンスペースを含め、全長45cmの体軸視野の画像化が可能であることを示した。さらに、放医研にて開発した頭部用試作機jPET-D4を仮想的にオープン化し、実験データに対しても有効性を確認した。オープンスペースは、治療スペースやXCT装置の設置場所として活用でき、粒子線治療モニタのためのオンラインPETや新しいマルチモダリティ装置への応用が期待される。