放医研ニュース No.44 研究最前線 (JUN, 2000)


NIRS次世代PET装置の開発研究

The Development of the New Generation PET Scanner

村山 秀雄 (Hideo Murayama)



画像診断棟の完成により放医研は、棟内の最新設備を利用して他研究機関や大学と共同研究を積極的に推進し、高度画像診断技術の高度化を図ることがより一層期待されています。平成12年度4月から5年をかけて行われる高度画像診断装置開発研究はその一環ですが、そのプロジェクトの中で推進される次世代PET装置開発研究について紹介します。次世代PET装置開発研究は所外の研究者と密接な協力体制の下で実行されますが、そのための本部として棟内3階の画像解析室を機能させる予定です。将来は試験機の成果の下に実用機の開発を目指しており、次世代PET装置を棟内2階のPET室に設置し、臨床に応用する計画です。

This article introduces a new project of developing the next generation PET in cooperation with other institutes, universities, and corporations during from Apr. 2000 to Mar. 2005. The prototype scanner will be placed at the second floor of the newly constructed building in NIRS for medical imaging.

1. 背景 (Introduction)

PET(ポジトロン放射断層撮像法)の技術は20年以上の歴史を経て、現在では商用化され臨床で活発に利用されています。初期には2次元(2D)モードPETと称して、各スライスごとに画像を得るX線CTの方法を転用していたために感度を犠牲にせざるを得ませんでしたが、近年、立体計測法を採用したPET独自の3次元(3D)モードPETが研究開発されてからは、感度の大幅な向上が可能となってきました。2Dモードでは99%以上の放射線を無駄にしていましたが、3Dモードでは原理的に2Dモードの50倍以上の感度を達成できます。

A 3D PET can achieve the sensitivity of 50 times larger than that of a conventional 2D PET.

511keVという比較的高いエネルギーのガンマ線を無駄なく検出するには、体軸を中心にした円筒表面に検出素子を密配列しますが、検出素子の幅が4mm程度であるのに対して、厚みは30mm程度である必要があります。しかし、図1に示したように、3Dモードでは検出素子を斜めに見込む放射線を検出するために、検出素子の厚みにより解像度が劣化してしまいます。その度合いは、立体計測を広げるほど大きくなるため感度を向上するほど解像度が低下します。この問題を克服するには、検出素子の深さ方向のどこで放射線が吸収されたかを判別することが必要となります。つまり、円筒表面のどの位置に放射線が吸収されたかを同定するだけでなく、表面からの深さ位置を知ることのできる3次元放射線位置検出器が必要であるということです。そのために、世界中で多くの研究者が3次元放射線位置検出器の研究に取り組んできましたが、実用的な検出器のレベルには未だに至っておりません。しかるに、放医研においては2社の国内企業と共同して、深さ方向を3段もしくは4段に弁別できる新方式の放射線位置検出器に関する基礎研究を先行しており、実験室レベルでは新方式の妥当性が裏付けられたことから、実用的な検出器を開発できる目途が立ちました。

Figure 1 (B) shows the parallax error in 3D PET unless information of depth of interaction (DOI). We are proposing a new detector with four-layered scintillation crystals, and its possibility has already been demonstrated in a laboratory condition.

3次元放射線位置検出器が実用化されますと、従来のハードウエアおよびソフトウエアではその潜在能力を有効に活かすことができません。装置の要素技術をすべて見直して、新しく構築する必要が出てきました。次世代PET装置開発研究では、PETの要素技術を革新しようとする世界の動向に呼応して独創性を大いに発揮し、高感度・高解像度のPET装置の実用化に向けて国際的な競争に参入し、医学に貢献しようとするものです。

This detector will make the best use of 3D PET sensitivity without loosing the spacial resolution.

Figure 1: Schematics of (A) conventional 3D PET, and (B) our "next generation PET".


2. 研究内容 (Details)

3次元放射線位置検出器の実用化、およびその新しい検出方式の採用に伴って必要となる検出素子(シンチレータ)、受光素子、検出器ユニット、データ収集系、データ処理系等の要素技術を新たに研究開発し、これらの要素技術を統合化した高感度・高分解能の次世代PET装置試験機を設計・試作し、実用化に向けた性能試験を行います。 3次元放射線位置検出器を利用すると、検出素子数は装置の大きさにも依りますが数十万個となり、従来のデータ収集方式では同時計数処理が間に合わなくなりますので、新たなデータ収集方式を考案しなければなりません。さらに、従来のデータ蓄積方式(ヒストグラムモード)のままですと計数データが10億個にも分類されることになります。しかし、放射線の総計数は1フレームあたり100万カウント程度ですから、ほとんどの分類した箱の中身は0の計数となり、時系列で計数データを蓄積する別種のデータ蓄積方式(リストモード)をPET用に開発する必要があります。

The project totally develops scintillator materials, light detectors, electronics, and software. The number of line of response (LOR) will be not less than one billion!

余りに強い光に対して人はまぶしくて目がくらみます。検出器も同じで放射線源の強度が高いと機能できません。一方、余り強度が低下すると、闇夜において目がきかないのと同様で検出器も機能できなくなります。3Dモードであれば感度は確かに向上しますが、2Dモードと同じ強度の放射線源に対しては放射線検出器の方が対応できません。次世代PETではこの問題を解決する方式も検討します。猫の目の瞳孔が、明るいときには細くなって感度を下げ、暗いときには広がって感度を上げるように、放射線検出器の瞳孔のような機能を実現させたいと思います。

Because a very high sensitivity increases the "dead-time", some system like the pupil of an eye may be required.

その他に、多数の検出素子の感度校正法や散乱線、偶発同時計数、吸収の補正や立体計測データの画像再構成法など、次世代PET装置により得られる機能画像の定量性を確立するための基礎的な研究が行われる予定です。

Other correction and adjustment methods will also be investigated.


3. 研究体制およびプロジェクトの目標 (Aims)

Fig.2: The member of the team and the goal of the project.

図2に研究体制およびプロジェクトの目標を示します。先進国では多くの分野の異なる大学、研究機関の人材が企業と有機的に連携することにより開発力を発揮しています。欧米に立ち遅れたPET装置の要素技術について日本を最先端の水準に引き上げるには、従来の組織的な産官学間の閉鎖性を打破し、それぞれの専門家が参加し易い横断的な協力体制に移行することと、PETに関する医学物理、放射線計測工学、医用画像工学や医学・薬学応用などの新研究分野の人材を若手研究者を中心に育てることが必要です。具体的な施策として、PET装置の要素技術ごとに小研究グルーブを構成します。グループ間の調整を円滑に行い、足並みの揃えやすい分散型かつ円卓的体制を組み、次世代PET装置試験機の設計および試作を行います。

To catch up with the frontiers, not only the national investigators but also academic professors and commercial engineers join forces with the project.

生体中における微量物質の代謝の様子を可視化する高感度・高分解能の分子イメージング用PET装置を実用化することにより、従来は感度不足で見出せなかった遺伝子発現に由来するような細胞・分子レベルでの異常が検出できることを目指します。また、ノイズが少なく定量性の高い機能画像を短時間測定で撮像できるようにすることで、がん、痴呆、動脈硬化性疾患などの疾病の早期発見と予防、治療の高度化に貢献することがプロジェクトの目標です。

Finally, the next generation PET will take a movie of in vivo molecular metabolism.



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