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平成17年1月19日 3mm以下のがんの検出も可能に。
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図1 PETの原理と装置構成 |
こうした背景の中で、放医研の研究施設や研究環境を利用して、千葉大学、東京工業大学、東京大学、北里大学、早稲田大学、筑波大学、神戸高専および浜松ホトニクス(株)、日立化成工業(株)、(株)島津製作所等の研究者・技術者と共同で、二次元の放射線位置に加えて検出器深さ方向の放射線位置も計測できる従来にない「三次元放射線検出器」を開発し、感度と解像度の両方を飛躍的に向上する次世代PET装置「jPET-D4」の開発を進めている(図2)。
図2 オールジャパン"j"によるjPET-D4開発 |
具体的には、透過力の強い放射線を十分に検出するためには、センサーである蛍光体結晶を3cm程度に厚くする必要があるが、従来技術では、検出器を体に近づけて装置感度を高めようとすると、この厚みによって斜め方向から入射する放射線の位置検出精度が劣化してしまう。これに対し開発装置では、蛍光体結晶の深さ方向の放射線位置を計測することによって、位置検出精度を保持したまま検出器を体に近づけることを可能とし、従来装置では達成不可能であった画像中で均一な3mm以下の解像度および3倍の装置感度向上の実現を目指している(図3)。今回、全体の5分の1の検出器を実装し、上記の高い解像度性能を達成した。
図3 感度と解像度を両立できる原理 |
今回の開発技術のポイントは、三次元放射線検出器を実用化し、本検出器のポテンシャルを活かしたデータ収集装置およびデータ処理ソフトウェアを新規開発することによって、放射線の検出から画像化までのシステム全体を具現化しその性能を飛躍的に高めた点にある。
開発装置の放射線検出器は、1024個の超小型の蛍光体結晶(2.9mm×2.9mm×7.5mm)を16行16列4層に組み上げたブロックの底面に、新規開発の受光素子を結合した構成となっている。蛍光結晶は放射線を受けると発光し、受光素子が光を電気信号に変換する。本検出器のポイントは、検出器深さ方向の4層の放射線位置を電気信号から逆算しやすくなるように、反射膜の結晶間への入れ方を工夫して光の広がり方をコントロールするところにある。開発装置は、120個の検出器、即ち12万個の蛍光体結晶から構成される。今回の試作装置では、120個のうち5分の1にあたる24個の検出器を実装した。(図4)
図4 装置写真 |
おのおのの蛍光体結晶ごとに、位置検出精度および放射線エネルギー情報を校正する自動化ソフトウェアを新規開発し、複雑で膨大な信号処理を容易かつ高速にできるデータ処理装置を構成した。
提案装置では、従来装置に比べ約50倍多くのデータを取得できる。膨大なデータを効率的に取扱いつつ、断層像を精度よく画像化するソフトウェアを新規開発し、画像中で均一な3mm以下の解像度を達成した(図5)。
(a) 高解像度特性。従来装置では、画像の端で大きくぼけてしまうが、開発装置では画像中でほぼ均一な解像度を達成。(1点の大きさは直径2mmで、5mm間隔に配置。画像の大きさは、25.6cm四方。) (b) 脳を精巧に模擬した模型を用いた実験結果。精神神経疾患の研究対象である前頭葉(赤で囲った部分)の大脳皮質の構造が精細に画像化できている。 |
jPET-D4は、従来装置では達成不可能であった画像中で均一な3mm以下の解像度および3倍の装置感度の実現を可能とする。これによって、PET検診などPET検査の普及に伴い明らかになってきた種々の問題が解決される。
具体的には、3倍の装置感度向上によって、検査時間を3分の1に短縮でき、それに付随して被ばく量が大きく低減される。また、高い解像度性能は、より小さな病変検出を可能とし、病気の早期発見による治療費の削減が期待できる。
さらに、装置感度向上は画像化の時間間隔の短縮を可能にするため、脳機能研究などの分野において、脳の活動など特定部位の変化をリアルタイムに近いかたちで観測することもできるようになる。
また、高性能PETによる恩恵を国民が広く受けるためには、装置自体の価格が装置の普及を妨げてはならない。開発装置では、検出器を体に近づけることによって、検出器の総面積削減に伴う装置コストの抑制が期待される。具体的には、従来装置と比較して、上記の優れた性能を達成するにもかかわらず、検出器の総面積は3分の2程度である。
さらに、検出器を体に近づけられるという特徴は、開発装置の小型化を進めることによって、小動物専用装置や乳がんなどに特化した部位別装置などへの応用へつながる。小動物専用の次世代PET装置が実用化されると、動物を殺すことなく、同じ動物を使って何度も薬剤の効果を調べることが可能になるため、新薬開発の分野に大きく貢献すると期待される。
○ 検査時間の短縮と被ばく量の削減、疾病の早期発見
○ 脳の活動など特定部位の変化のリアルタイムに近い測定
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装置の高性能化と低コスト化の両立
○ 小動物用PETや部位別PETへの応用
本件については、17件の特許を申請中(内1件は登録済み)であるほか、数多くの学術論文を海外論文誌(米国電気電子学会, IEEE Transactions on Nuclear Scienceなど)にて発表し、国際学会(米国電気電子学会, IEEE Nuclear Science Symposium and Medical Imaging Conference)や国内学会(日本核医学会など)にて数多くの報告を行っている。
特に、昨年6月に米国で開催された国際会議(米国核医学会, Society of Nuclear Medicine) にてYoung Investigator Awardを受賞している。また、昨年10月にイタリアで開催された国際会議で高い評価を受けた。(2004 IEEE Nuclear Science Symposium and Medical Imaging Conference)
(問い合わせ先)独立行政法人 放射線医学総合研究所
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